食べきれない大豊作は嬉しさ半分、困った半分の吉田さん
「〝野良とは野を良くすることだよ〟という友達の言葉に魅力を感じて、野良仕事をやってみたかったんです。自然農法を実践して、自分で作った作物を自分で食べられる生活が夢でした。」と切り出された吉田さんの奥様。
ご主人はもともとは農家のお生まれなのだそうですが、子供の頃にほんの少しだけ手伝った程度で、全く農業の経験はありませんでした。それが、ここで本格的な農業をすることになったのです。
理想の畑の出来る土地を探して北海道から沖縄までいろいろな場所を歩いてみた結果、辿り着いたのがこの鹿島でした。以前は千葉県にお住まいだったので、案外近い所で理想のフロンティアを見つけたようです。
この辺りではぽつぽつと休耕地が目立っています。元々の農家の人達は後取りの息子さん達が都会へと出て行ってしまい、高齢になって自分で耕せる畑は少しずつ縮小されているのです。
そんなご近所の農家の方から、「畑をするならうちの農地を使って」と、充分すぎる広さの畑の貸出しの申し出があり、これがきっかけでここを選んだそうです。
畑は作物を作ってこそ畑。耕さなければ雑草が生い茂ってしまい、養分が無くなり、価値がなくなっていきます。どうせ遊ばせておくんだったら畑として使ってもらった方がお互いの利になるし、親交も深められると、大家さんが思われたかどうかは分かりませんが、快く畑を貸していいただいたのです。「この方との出会いがとても良かったからここに決めたのです。」と奥様。
そして、土地の改良や改善の方法をはじめ、本格的な農作業の手順やなんかも全部教えていただいているのだとか。
いわゆる〝土いじり〟が目的でこちらに移住なんだ、と安易に考えてしまった私でしたが、驚いたことに、なんと家から見渡せる一帯が全面、ご近所の農家の方からお借りして作物を育てている畑だったのです。
庭先での家庭菜園の延長のようなものかと思いきや、あまりにも広々とした農園の風景に唖然として、「田舎暮らしをのんびりと」なんてとんでもない! それは本格的な農家のお仕事だったのです。
そして、庭の真ん中には作物を乾燥させたり保存したりできる小さな作業小屋が建てられていて、玉ねぎとかニンニクがびっしりと吊るされているではありませんか。この小屋はご主人がコツコツと資材を調達しながら造り上げたものです。
大工仕事もこなせるというご主人がこの家を決められた理由は、まだ建設中だった時に見学に訪れ、その時に出会った大工さんの〝仕事ぶりに惚れた〟というのです。
大工さんは見えない部分の造りについて懇切丁寧に説明して下さったのだとか。それが決め手となって、「こんないい仕事をする大工さんの家だから間違いなし! 」と感じられたとお話ししてくださいました。
作業小屋の真ん中にテーブルをしつらえ、畑を眺めながら並んでお茶をするひと時、なんて素敵な時間でしょう。とても幸せを感じる一瞬なのでしょうね。
野菜はほとんど自給自足。スイカやとうもろこしなど、20~30種類の野菜やハーブを育てています。しかも自然農法で作られた野菜は体にもやさしいし、なんと言っても自分で作った野菜を食べて生活できる喜びが一番なのだそうです。
「あとは米・味噌・醤油があれば充分に暮らしていけるよ。」とお二人とも満足げな表情です。もちろん農作業は大変な事も多いけれど、それ以上に収穫のありがたさやおいしさを感じることが出来て、それはまぎれもなく充実したセカンドライフの証でありましょう。
ここに来て10年以上になるという吉田さん夫婦ですが、近年の悩みは作物が取れ過ぎてしまうこと。最初の頃はご友人や娘さんのところにおすそ分けとして送ったりしていましたが、あまりに量が多いと送料が高くついてしまう事に気付き、適量にするとたくさん余ってしまいます。食べきれずに腐らしてしまった事も度々あったのだそうです。
そこで奥様は考えました。そう、保存食としてお漬物にすれば腐らせずにすむ、という発想です。
いろいろな野菜を様々な方法でお漬物にしてみると、結構いけるではないか!
凝り性の奥様は、地方で作られている名物お漬物を自分で漬けてみることにも挑戦。今ではご近所から催促がくるほどの出来なのだとか。いずれは漬物講座のサークルを開いて、大和会の皆様にもいろんな漬け方教えて差し上げたいと、笑顔たっぷりでお話しして下さいました。
こうなればもう「田舎暮らし」はベテランの域に入っていますね。自分で作った自然農法の野菜を食し、農作業で体を動かし健康維持。そしてお仕事の合間には2匹のワンちゃんを撫でながら、お茶をすすり、畑を見渡す・・。
「本当に理想の田舎暮らしを実現しています。」と終始とても楽しそうでした。
そして帰り際には、秋には茨城名産のサツマイモが大量に収穫されるので、焼き芋パーティーを行いますとの事。その準備なのか、ブロックを積み重ねた焼窯のような造作物も庭に備えられています。
「その時はぜひ来てくださいね。ただし車で来てくださいよ。いっぱい持って帰れるように!」お二人で元気に手を振ってくださいました。
充実したセカンドライフを送るには、食物の選択は重要です。健康であることが一番の条件ですから、それを満たす考え方は〝医食同源〟。食べ物が体を作り、良い食べ物が健康を維持します。そして適度な運動は、畑仕事をする事で自然に無理せず行うことが出来てしまうのです。生きている実感を畑作りや作物の一つ一つの実りから得られているのだなあと感じさせられて、そのことに改めて新鮮な気付きを呼び覚ましてくれたような、そんな吉田さんのセカンドライフでした。